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  • 執筆者の写真maiko

父へのカミングアウト



「なんや、話があるって言うから男の人でも連れて帰ってくると思ったわ」


東京に住んでいる私が、大阪に住んでいる父に「話したいことがある」と伝えて帰省し、いつものように最寄り駅まで車で迎えに来てくれた父は第一声でそう言った。


(そうか、やっぱり未婚の私が、“話がある”って言ったら、そういう事を想像するよね。結婚を急かしたことはない父だけど、口にはしなくてもいつもどこかで期待してたのかな…)


「…一人で帰ってきてごめんなー!」


声のトーンを上げながら、私は父の運転する車に乗った。


母は、父に私がレズビアンであることをカミングアウトすることを数年前から反対していた。「もうすぐ70やし、理解できひんと思うよ。それに、お父さんは今、幸せやから。できたら言わんといてほしい。」


お父さんが幸せなのは、とてもありがたいことだけど、それは私がカミングアウトすることで崩れてしまう事なんだろうか。母に悪気は無い。でもなんか、地味にじわじわ傷つくな…。


私は、今暮らしている東京では、自分のセクシュアリティをオープンにしている。友達はもちろん、職場の仲間やお客さんに、自然に伝えられるくらいまでにはカミングアウトすることに慣れてきた。数年前に2020年に東京でオリンピックが開催されることが決まったことを皮切りに、大手企業を中心にセクシュアリティの多様性の理解促進の動きが進み、そういうことに偏見があることのほうが“理解が無い”とみなされ、とても生きやすい社会になってきたことを感じる。(もしかすると会社の環境や地域によっては違うかもしれないけど…)


そんなこんなで、カミングアウトには慣れている私でも、家族や親にカミングアウトをするとなると全く状況は違う。一番味方になってほしい、大切な人にほど、カミングアウトは勇気がいる。理解されなかったときに「あなたは理解のない人ですね」と、突き放すことができないからだ。一番守ってほしい人から理解されなかったら、もう立っていられなくなくなりそうな気持になる…。


ある日、今の会社の社長と、親へのカミングアウトについて話していた時に、怖くてカミングアウトすることができないと弱音を吐いて泣いてしまったことがあった。すると、彼は、「それは怖いかもな」と受け止めてくれながら、「もしカミングアウトする日が来たら一緒に大阪まで行ってやるよ。玄関の前で待ってるから、カミングアウトできたら出ておいで。何があっても味方が側にいるって安心してカミングアウトしておいで。」私は、彼の懐の広さに驚いて涙が止まらなかった。


さすがに、いよいよ父にカミングアウトする日に、社長に同行はしてもらわなかったけど、その言葉をもらえただけで、勇気が出た。そうか、何があっても味方がいるんだから、ちゃんと立っていられるかな…。


実は父と二人で食事をすることは、今回が初めてだった。父は二人で食事がしたいという私からの申し出に少し驚いていたが、なかなか本題が切り出せない私に気を使い、普段は無口な父もその日は饒舌に話してくれた。町内会の役員になったこと、避けられない南海トラフ地震に向けての地域の防災活動のこと、亡くなったおばあちゃんが元気だった時の話、父が東京で仕事をしたときのことなど。一方的に父が話をして1時間くらい経ったころに「それで話って、なんやの?」と聞いてくれた。


私は一言も発することができずに泣いてしまった。父は沈黙を許してくれた。しばらくして、私は意を決して話始めた。「今日、駅まで迎えに来てくれたとき、“男の人でも連れて帰ってくると思った”って言ってたけど、実は紹介したい人がおんねん…。」父は笑ながら「そうなんかいな?紹介してくれたらいいやん。」と言った。姉の時も、喜んで迎え入れたんだからという話と共に。


私:「…でも、その紹介したい人は、…女の子やねん。」


父:「…女の子かいな?」


笑って、父はのけぞった。


父:「…そうか。それで、日本では、婚姻できるんやったっけ?」


…私は驚いた。


え?普通に話が進んでる…?。


私:「婚姻は今の日本ではでけへんのやけど…お父さんは、私の紹介したい人が女の人ってことで、嫌やとかそういうのはないの?


父:「?なんで、嫌やの?」


私:「…。」


父:「そんなの、お父さんが嫌とか、嫌じゃないとかそいういう問題じゃないやん。お父さんは、お前がこれから暮らしていくうえで、お前を支えてくれる人が、男の人でも女の人でもどっちでもいいよ。支えてくれる人がいるだけで嬉しいよ。今度連れておいで。」


まさか、父がここまで自然に受け止めてくれるとは想像していなかった。(言葉の裏に動揺があったかもしれないけれど)


ずっと心配して、緊張しながら待っていた母に、このことを伝えると「本当によかったね。」と泣き崩れた。「親は子供が幸せなら本当にそれでいいのよ。それにしても…お父さんの事を惚れ直したわ…。」


父にはカミングアウトをしていないということで、今までどこか一定の距離を取っていたようなきがする。今回のカミングアウトをきっかけに、もっと父と距離を縮めていきたいと思った。

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